ライター:田中啓悟
かき氷の概念を覆す

今回のナメリカワビト_
中田 沙樹
nakada saki

氷とおやつ なかだや。

夏は完全予約。冬は気軽に。

滑川にすごいかき氷屋がオープンするらしい、という噂を聞いたのは2024年の4月ごろ。これから暑くなり始めるというタイミングで、何ともそれらしい話題が入ってきたことへの喜びが芽生えた。かき氷専門店をどうして滑川で、という疑問はあれど、とにかく前評判がすさまじかったこともあり、期待は高まる一方だった。
オープン直前には完全予約制を敷き、店の位が一気に跳ね上がる。行こうと思っていたのも束の間、ふらっと立ち寄れないハードルの高さに足踏みした。そんなかき氷のお店『氷とおやつ なかだや。』の在り方について、店主の中田さんは自らが営むお店に一石を投じる。

「どうしても一人でやってることもあって、最初に完全予約制って謳ってしまったから、今もどこか入りづらい、行きづらい空気が生まれてしまって。夏はせっかく来てもらったのに入れない、っていうことを一番に避けたくて完全予約にしてるんですけど、冬は予約してなくても席が空いてたら全然座ってほしいですし、お取り置きの対応もしてます」
完全予約制の弊害が、オープンから尾を引いていると語る中田さん。かき氷は溶けるため出来立てを味わってほしいという中田さんの想いが、お客様を待たせないために予約制でお店を始めたきっかけになったが、完全予約という言葉の力強さが想像以上に目立ってしまった。
だが、思い悩む彼女を前に、少し安心した自分がいた。これからは気軽に行けばいいんだ、と思えたからだ。

かき氷のお店と銘打ってはいるが、冬の時期はかき氷以外にも喫茶として営業する日もある。スコーンやケーキなどの提供を行い、様々な客層が彼女の作った甘味に舌鼓を打つ。SNSを中心に大勢のファンが投稿しているのも鑑みて、これからはもっと客足に弾みがつくだろうと確信した。

五杯も食べることが出来る上質かき氷
「色んな方が来てくれるのもそうなんですが、中にはすごく沢山食べてくださる方もいるんです。一人でかき氷五杯食べる、みたいな。かき氷で始まってるからっていうのもあると思うんですけど、冬も喫茶の日よりかき氷の日の方が圧倒的に忙しいです」
耳を疑った。思わず、かき氷を一人で五杯も!? と反応してしまう。自分がかき氷を食べ慣れていないせいなのか、いや、常人でも普通は五杯も食べないよなと、頭の中でかき氷に対する固定観念がもたついた。

学生時代は県外で過ごし、そのまま製菓の道へ就職を果たした中田さん。県外で十年ほど働き、富山に戻ってからは県内のケーキ屋でさらに修業を積んだ。働きながら、自分が独立してやっていくなら地元で、という想いを抱くようになり、やがて、地元・滑川での独立を決意した。

僕も実際にいただいたが、中田さんの作るかき氷は、かき氷そのものの概念を覆される口触りと味の深さで、味と食感に感激した。祭りの屋台で食べるジャリジャリしたかき氷とはまた違う良さがある、羽毛のように柔らかいきめ細かな氷の層は、しっかりと冷たさを感じさせながらも、口の中で溶けることなく留まり続ける。かき氷にもこれほどまでの表現の幅があることを知り、少し賢くなれた気がした。
チャレンジは、自分流の切り口で


「出来立てのスイーツが好きで、その中でもかき氷が一番だと前職で学ばせていただいたことがきっかけになって、お店としてオープンする決意をしました。そうなってくると、スイーツを作る素材そのものにもこだわりたくて、店を始めてからはずっと自分で色々なところに足を運んで仕入れてます」
かき氷のファンだけでなく、フルーツのファンをも掴んでしまう。人気の秘訣は手腕のみならず、こだわりの部分にもありそうだ。

「各々がこの場所を、この通りを盛り上げたいと思ってるのを間近で見て、正直リスペクトの気持ちしかないです。今までこの街で頑張って来られた方々に少しでも追いつけるよう、自分の出来ることをして、来てもらったお客様にこの街に来てよかった、また来たいと思ってもらえるように努めていきたいです」
彼女の想いは、街の人とお店にやってきてくれる方に対するリスペクトで出来ている。
月並みではあるが、全人類が食べてみてほしい。かき氷と侮ることなかれ、一種の芸術作品を見て、撮って、味わうことが出来るのは中田さんのなせるわざに他ならない。

