ライター:田中啓悟
日本全国“ハイク”の果て
今回のナメリカワビト_
サガエもん
Sagaemon
ゲストハウス あめりか和
旅こそ正義


旅好きのオーナーが、宿泊客とお互いが歩んできた旅路について語り合うことをコンセプトとした宿泊施設『ゲストハウス あめりか和』。住宅街の一角にどんと構えるように建っている、そんなゲストハウスを滑川で運営するのは、齢25の若き青年だった。
「もともとアメリカの大学に通ってたんですが、僕が留学しているときにちょうど新型コロナウイルスが流行りだしてしまったこともあって、留学生は軒並み帰国することになったんです。日本に帰って来てからは大学の課題をする生活が続いて、そのときにあまりにも時間があったので全国を回る旅をしてたのが今に繋がっています」
高校卒業までは地元である大阪を中心に育ち、その後アメリカの大学を出たという経歴があるサガエもんさん。大学入学前の時間を使って日本国内を巡る旅をしていたが、幸か不幸か留学期間中に日本への帰国を余儀なくされ、空いた時間を使っての旅を再開。全国各地を巡る中で出会う人も増え、今では全都道府県に友人がいるという彼が自らゲストハウスを開業しようと決意したのには、旅先で泊まることになったあるゲストハウスで、旅の醍醐味ともいえる人との出会いに感銘を受けたからだという。
「大学を卒業してからは日本国内で就職したんですが、それからも旅は続けていて、そんなときに泊まった宿がまさに旅人が集まるゲストハウスだったんです。すぐに「俺もゲストハウスやりたい!」と思って、考える間もなく次の日には会社を辞めてました(笑)」
この行動力は、それこそ旅人気質と言えるだろうか。就職して僅か半年で退職。ふらっと気ままに、レールがないところを歩いてみようと決断できるその生き方が、彼を突き動かしていく。


「会社を辞めた次の日からまた長期の旅に出たんですけど、そのときに出会った方がたまたま富山県滑川市に物件を持っていて、活用してくれる人を探してたんですよ! それを聞いて二つ返事で移住を決めました。富山県自体も何度か訪れていたので、馴染みがあって即断できたところもあるかもしれません」
旅先で出会った人に誘われ、宛てのなかったサガエもんさんは直ぐに移住の準備に取り掛かった。ゲストハウスをやりたいと思って会社を辞め、その次の日にはオーナーとなってくれる人にも巡り会うことができ、事が順調に運びすぎて怖さすらあったというが、この出会いを逃すまいと滑川の地に足を踏み入れた。
「やっぱり観光地とかある程度見どころのある場所は旅に出れば出るほど尽きてくるので、飽きてきちゃうんですよね。その中でたまたま一緒に事業をしようって持ち掛けられて人生が変わったので、本当にタイミングのいい巡り合わせだったと思います。その頃に、自分が求めていたのはあの場所に行きたいっていう景色を見る旅じゃなくて、『旅で出会った人と話したい』だったんだって、気づかされました」
偶然にもゲストハウスという存在が人生の軸になり、都会から田舎へと移住を果たし、着々とゲストハウス開業へ向けて邁進するサガエもんさん。DIYの知識も経験もなく、自分なりに出来ることを見極めて滑川で過ごす日々が続いたが、トントン拍子で進んでいた事業の足取りは、突如として不穏な泥濘へと誘われていく。

物件喪失の危機
「実は今ゲストハウスとして使っている物件は二棟目でして、最初の物件とは違うオーナーの所有物件なんです。当初は移住して一年近く住んでいた物件をそのままゲストハウスにする予定だったところ、大規模な雨漏りが発生してしまいまして……」
移住の決め手となった住まいは老朽化が進んでいたこともあり、突如として大規模の雨漏りが発生することになったという。改修費として相当額をつぎ込まなければならない都合上、開業資金をやりくりしたとしても到底採算が合わず、撤退することに。それから数カ月して、サガエもんさんの話を聞いた別のオーナーから現在の家を借りることができ、事なきを得た。まさにベストタイミングだった。
「実際に他のゲストハウスを見に行ったり自分で泊まりに行ったりしていく中で、やっぱり多くのゲストハウスが昔ながらの日本家屋をDIYして使っているので、皆さんそれなりに苦労されていることが多そうでした。雨漏りだけじゃなくて床が傾いているとか、長らく家を使ってなくて畳が傷んでいるとか、そういったところのコストはどうしてもかかる傾向があるので、慎重に判断する必要があるなと感じています」

二度はない。今の物件を失ってリスタートを強いられることは、いよいよゲストハウス事業の存続に関わることになる。モチベーションを維持する上でも、今の箱をどうしていくかに注力していきたいと語るサガエモンさんだが、運を味方に付ける彼だからこそ、常に前向きで居続けられるのかもしれない。
「正直、前の物件でゲストハウスをしようとしていたときは周りが見えてなかったところもあって、全然整備が行き届いていない状態で開業しかけてたんだなって、今になって思います。雨漏りが起きてくれなかったら、今頃どうなっていたことか……」
雨漏りですら、彼の肩を持つというのだから驚きだ。結果として別の家で、地域の方と協力しながら整備を進めて開業までこぎつけ、こうして宿泊客との団欒を楽しめているのは奇跡と言ってもいいだろう。
「思い返せばコロナ渦であったり、物件が使えなくなったり、逆境もあったんですが、僕はそのおかげで得たものも沢山あって、上手く切り抜けられてきたのが今の自信につながっていると強く感じてます」
人生は、何が起こるかわからない。一見、どうにもならない状態に追い込まれていたとしても、誰かが繋がってくれることで変わることもある。少なくとも、サガエもんさんはゲストハウスを開業したいと方々で発信し続け、それが実を結んで早期に立て直しを図ることができた。
困ったら誰かが助けてくれる。地域で生きることの真髄は、ここにあるのかもしれなかった。

人生、不幸でなければ面白くない
「普段は“ハイク”を詠みながら旅をしておりまして、こう共鳴してくださった方が車に乗せてくれると言いますか……。田中さんは普段ハイク詠みます?」
旅の話を聞いたのが間違いだと思ってしまうほど、何とも歯切れの悪い言い分である。“ハイクを詠む”という行為がきっかけで、道行く人が何故見ず知らずの旅人を車に乗せようと思えるのか筆者にはよく理解できなかったが、まぁそういうことだろう。本人があまり語りたがらないところでもあるため、こればかりは読者のご想像にお任せする。本人曰く、累計1700台の車にお世話になったそう。
「実際、旅をしている最中もツイてないなぁって思うこともありますし、ツイてないどころか一歩間違えれば……みたいな危ない経験もしてきました。ただ、それが良くて。旅にトラブルは付き物って言うじゃないですか。トラブルがあるから、あの時の旅はこうだったなぁって思えるんですよね」
やはりそれだけの数の出会いがあると、良い出会いだけではないのもまた事実。大事になったことはないと豪語するサガエもんさんだが、トラブルに巻き込まれることも多少ある旅のスリルは味わったものにしかわからない。だが、お世話になった方同士が自分を通じて意気投合して、自分の知らぬところで一緒に遊びに行ったり、会っていたりするのを見ると嬉しいとも語る。

「なので、様々な珍道中を歩んできた旅人の各地での話を聞きたい、自分も披露したいという方はウェルカムです! 僕も旅が好きな方と出会いたいので、来てくださった皆さんの話を楽しみに待っています!」
滑川にある『ゲストハウス あめりか和』。ここでは、日本全国を巡った旅人が、あなたの帰りを待つ。国内から、世界から、どんなところから来たとしても、変わった旅人が温かく出迎えてくれることだろう。彼のことだ、あなたの人生においての不幸を、味付けして幸せなものにしてくれるかもしれない。
「それと、個人的な目標としては、できれば令和の大合併前に全市町村訪問制覇したいですね(笑)」
そう息巻く旅人のサガエもんさんは、果たして令和の大合併前に全市町村訪問制覇もできるのか。総じて幸運な旅人の真実は、この場所を訪れた人のみぞ知る。

