ライター:田中啓悟
自分で作り上げる人生を

今回のナメリカワビト_
紺田 亜意/紺田 宏治
Konta Ai/Konta Koji

Ai cafe

迷いに迷ったかつての自分


滑川駅の前に、可愛らしさ溢れる色彩を放つ小さなカフェがある。店のロゴにはエッフェル塔があしらわれ、入り口の扉は塔の形を模したガラスがはめられているなど、既にこだわりが見える店づくりだ。中に入ると、ピンクを基調とした装飾の数々が視界いっぱいに広がった。
「何かを自分でやりたいっていうのがずっとあって、お洒落なカフェか、美容師だったので独立するかとか、自分で何かを作り出したい欲は昔からあったんです。色々な職業を転々とした結果、カフェに落ち着いたっていうところで」
何度も通り過ぎてきた人生の節目を思い返す素振りをしながら、亜意さんはそう言った。もとよりずっと同じ仕事をするつもりはなかったが、東京で美容師として働き、富山に戻ってきてからは靴屋で働き、今では地元の滑川でカフェも経営して、多くの経験を積んできた。原動力は、ひとえに『好き』の気持ちがあるからに他ならない。


「美容師の仕事はもちろん好きでやってたんですけど、手や腕が荒れたり、身体の不調も続いたりして、長くはできないなって思いました。その後、誰かを雇って、自分がオーナーでお店をするってことも考えたけど、自分が出来ないのにそれは楽しくないなっていうのもあって、思い切って辞めてみました」
一度きりの人生を、自分が満たされないものに使うのはどうなのかという自分との闘いが、彼女の背中を押した。僕もそうだ。変わらない人生を何とか進めるために、地元から飛び出して物理的に境目を設けた。生き方は思い立てばいかようにもなるが、それは相応の覚悟を持ってようやく得られる対価でもある。
人生は、配られたカードで


そんな彼女が六年をかけて作り上げてきた店内は、想いの結晶で溢れている。ご夫婦が共通して好きなスヌーピーのグッズがどこに座っても目に入るが、パートナーの宏治さんが家にあったものを飾ってくれたそう。こだわりを持っているからこその空間づくりは、足を踏み入れた僕としてもワクワクして一緒に想いを共有しているような気分になれた。
「滑川に帰ってきたときは独身だったので、後悔しないように色々やってみたかったんですよね。休みの日にカフェ巡りしたこととか、輸入雑貨を扱う会社で働いたこととかも、よくよく考えてみたら今に活きてるなって」
美容師と靴屋だけかと思っていると、まだ別の業種の話が飛び出てくる。シンプルに感心してしまったのは、その幅の広さだろうか。どれも、似通っているようで絶妙に系統の異なるエッセンスを取り込み、自然と形にしてしまう。やるべきこととは別に、やってみたいことの軸を持っている亜意さんだからこそ、持っているカードを使って上手く立ち回ってこれたのかもしれない。
そこには、いつ何時も自分を支えてくれた、最愛のパートナーがいることも忘れてはならない。
私たちが、必ず出迎える


「最初はふらっと立ち寄れるカフェが欲しくて始めたこのお店が、気づいたら出来て六年経っていることに驚いているのもそうなんですが、自分たちにも子どもが出来て、生活もすごく変わって、毎日が目まぐるしいのにも驚愕してます」
今は二人の子どもに恵まれ、四人家族として生活している紺田一家。気軽にカフェを利用したい人のため、そして自分自身のために営んでいるこのお店は、過ぎ去っていく年月の中で二人のものから家族のものへと変わってきた。

「誰が来ても、必ず誰かが出迎えてくれる。そういった安心できる場所を、これからも作っていけるように頑張っていきたいですね」
いつか、自分たちの子どもが、カウンターの内側に立つ日が来るのかもしれない。いらっしゃいませ、と緊張した面持ちで。
また来たくなる、ではない。帰ってきたくなるお店が、今日もあなたを待っている。

