ナメリカワビト

ライター:田中啓悟

体の為にのほほんと

今回のナメリカワビト_

ミズノ アユミ
Mizuno Ayumi

プラントミルク専門店 為体-teitaraku-

体の為にのほほんと

古通りに聳える黄色城の主

真っ黄色の建物が、存在を際立たせるようにして建っていた。外壁はどこまでいっても黄色で、近くに立っている他の建物と比べても異質さを放っている。敷地に踏み込むと、手作りの看板と今では見慣れない段差の高い玄関を通って中に入った。
この黄色城の正体は瀬羽町にある『プラントミルク専門店 為体‐teitaraku‐』というお店で、その名の通りプラントミルク(植物から採れるミルク)を専門としたスパイスカフェだ。スパイスと言ってもまろやかで、それほど匂いの強さは感じない。お店の奥に進むと、店主の水野さんが料理場でどっしりと構えて出迎えてくれた。

「最近調子どうですか? もうみんなバタバタしてるから、忙しそうだなーくらいしか情報が入って来なくて」

話を聞きにきたのは僕のはずなのに、まさかの逆質問だらけだった。ただ、根っからの話好きというか、水野さんらしいとすら思える。快活な彼女の人柄もあり、お店に来る人はいつも他愛もない話に花を咲かせている。
話をしている傍で、高さのあるカウンターの奥では新鮮で色とりどりな野菜に玄米、カレールーが盛り付けられていく。ざっとかけるだけじゃない、素材が増えるごとに高さを増していく姿はまさに芸術のようで、箱庭を作っているかのような面白味を感じる。
そんな皿の上の世界を手掛ける水野さんがお店を始めたのは、様々な要因が重なったからだという。

料理はできなかったが、気づけば店のオーナーに

「パートナーと一緒にお店をする予定だったから、まさか一人ですることになるとは思わなかったですよね。昔は『クックパッド』見なかったらご飯作れなかったし」
愛知県で生まれ、社会人になってからは東京に出て、その時に出会った人と富山へやってきた。料理も手伝う程度で、自分でメニューを考えて素材にこだわることなど考えたこともなかった。

一人になり、拠点を探した。富山市を活動の地とする予定だったが、滑川にあったこの物件が胸をときめかせた。
「この家、可愛いですよね。古民家に住んでみたかったっていうのもあるし、まぁ富山市も近いし、そもそも住居兼店舗を探してたからすごい良いタイミングで見つかって」
外観はハイカラな造りと特徴的な黄色一色で、横切った人が必ず振り向いてしまう見た目をしていながら、その実、中では食事が楽しめる。空き家だったこの建物を使いながら、自分の個性を詰め込んだ空間こそが今の彼女がいるべき場所なのだろう。

「最初来たときはとても住めた状態じゃなくて、通いで何回も掃除しに来ましたよ。この厨房も私が手掛けながら、知り合いにも手伝ってもらって、ありがたい」

滑川に腰を据えた水野さんを支えてくれたのは、店を応援してくれる知り合いに他ならない。もちろん、僕もそのうちの一人だが、応援すると同時に一つ気になっていた『都会への執着心』について訊いてみることにした。
「実際住んでたから、こっちに来てから苦労することはやっぱり多くて。コンビニもスーパーもあるから困ることはないんだけど、それ以上に行きたい場所が都会にはいっぱいあって、場所だけ移ってきてくれないかなって思ってます(笑)」

やはり、都会に対する利便性という点では敵わない。こだわろうと思ったら、どうしても数の揃う都市部が光って見えてしまう。ちなみに『カルディコーヒー』や『成城石井』など、こだわりの食材を扱う専門店が好きで、見かけたらつい入り浸ってしまうそう。

衝撃、滑川の世界観

「でも、都会のガヤガヤしてるあの感じも楽しいけど、滑川で過ごす日々も発見ばっかりで面白いですよ。田中さんも大阪出身だからわかると思うんですけど、こっちの生活って真逆じゃないですか。人も物も明かりも、段違いだからこそ生活そのものが違うというか」
その通りだった。人は歩いてない、最寄りのコンビニまでは徒歩十分、夜になると真っ暗な世界が広がっている滑川の姿は、僕ら都会から来た人間にとってはいつも新鮮に映る。

「経験を買ってるというか、古民家に住むことも普通はできないじゃないですか。やろうって思えたからここに来たし、離れずに住んでるわけで」
家賃を払っているだけじゃない。同時に、滑川で築き上げてきた店主としての人生は、経験となって帰ってくる。
お店も着実に未来へ向かって進んでいる。訪れてくれるお客様と一緒に歩む伴走者として、すこやかな未来を目指して突き進む。

「あぁちなみに、このお店のお皿とか装飾で使ってる陶器類は、全部自分で作ってます。いや、物創るの好きで」
もう、何でもありだ。一体どこが体たらくなのかと問い詰めたくなるくらいに、活動家として店を切り盛りする姿は活き活きとしている。
お店は今日も、すこやかな人生を送るためのハブとして明かりを灯している。
その畢生は、人々の生活を彩るためにあるのかもしれない。

外観写真

プラントミルク専門店 為体-teitaraku-

滑川市瀬羽町1853
ペン

ライター

田中啓悟

田中啓悟

ライター、滑川市地域おこし協力隊。大阪府大阪市出身。「来たことがない」を理由に、弾丸で富山に移住。面白い人生を送りたいがために、何にでも頭を突っ込む。